■ロワール河に、ラングロワ氏を偲ぶ

 パリから南に約200キロ、ロワール河沿いにブロワの町はあります。ロワール地方には、シャンボール、アンボワーズ、シュノンソーなどフランス王家や貴族が15〜16世紀にかけて建てた城館が数多く残っており、現在も美しい姿をとどめています。緑の丘や谷間には有名無名、大小様々なお城が点在し、王侯貴族の華やかな夢のあとを偲ばせます。近年のフランスではめずらしく涼しい日が続く今年の夏ですが、ジャンヌ・ダルクを題材にした野外スペクタクルなども盛んで、この地方の名物となっています。

 ブロワの町から蕩々と流れるロワール河を遡ると、やがて、サン・ニコラ聖堂の塔がブロワの森の陰に消えます。まるで絵ハガキのような雄大なロワールの田園風景の先に、やがて、クリスチャン・ラングロワ氏が眠る町、シュジーの墓地が見えてきます。静かな墓地です。オープニングセレモニーに先立ち、JTBツアー参加者による墓参会が行われましたが、各々、故人への想いをこめてバラを供えました。最後に挨拶をしたマダム・フランソワーズ・イカール=ラングロワ(ラングロワ夫人)も、ただただ「ありがとう」と口にするだけが精一杯の様子でした。

■開幕。日仏交流は新たな150年へ。

 7月18日(金)にスタートした本展は、日仏両国から多くの来場者を迎えることができました。また、同日19:00から開催されたオープニングセレモニーは、来賓によるスピーチ、弊社スタッフによるピアノと和太鼓によるセッション、『ジムノペディ日本の夏Mix』と和太鼓演奏、弊社代表・清水雅とラングロワ夫人による『ラングロワ氏の想い出』対談、そして、シャンソン歌手、カトリーヌ・マテリ(ピアノ演奏:ミッシェル・レロ)によるコンサートなど盛りだくさんでした。

 展示会場はアール・オ・グランの地上階と2階、および両スペースを結ぶ階段でした。地上階には主に絵画(日仏)、書などが展示され、階段踊場は主にフランス人作家による立体作品、2階にはその他の平面作品、詩歌陶板、日本人作家による立体作品が展示されました。また、地上階にはラングロワ氏の巨大肖像写真ほか、20枚ほどの写真が展示され、故人の偉業、弊社との十余年にわたる歴史を振り返りました。

 フランスの落日は遅く、夜10時ごろまで暗くなりません。会場となったアール・オ・グラン近くには、週末になるとたくさんの出店やフリーマーケットが並び、地元の人々や観光客たちの憩いの場となっています。また、新聞やラジオなどで紹介されたことも重なり、来場者は絶えることはありませんでした。来場者の多くは、じっくりと時間をかけて鑑賞されていたようです。受付にいるスタッフに感想を伝え、また作品鑑賞に戻り、翌日また来場してくれた人もいました。日本芸術がたいへん喜ばれていることが実感できる3日間でした。

 以下に、来賓によるスピーチの内容をお伝えいたします。

●アートコミュニケーション 代表取締役社長 清水 雅

 ブロワ日仏芸術祭へようこそお越しくださいました。まずは今日の日を迎えられたことに感謝し、ご協力頂きましたご出展者の皆様、この会場をご紹介いただいたマダム・ラングロワ、ユニヴェール・デ・ザール発行人のパトリス・ドラペリエール氏、そして、ご多忙にもかかわらずお越しいただいたロワール・エ・シェール県議会副議長のアンドレ・ビュイッソン氏にお礼申し上げます。この展覧会は、偉大なる建築家、クリスチャン・ラングロワ氏を追悼する目的で企画されましたが、彼の想い出については、後ほどラングロワ夫人との対談で振り返ってみたいと思います。

 また、本展はもうひとつ、日仏交流150周年を記念した公式事業でもあります。150年前の1858年に調印された日仏修好通商条約は、同年に米国、英国、オランダ、ロシアとも同じ内容で交わされました。日本国内での外国人の治外法権などが盛り込まれた、日本にとって不平等条約であったため、この条約に反対して暗殺を企てたり、これに荷担した者たちが死刑、追放されるなど厳しく弾圧されました。しかし、この条約のお陰で日本は大いに近代化し、今日の世界での地位を確立することが出来ましたし、芸術的にも、日本の浮世絵や陶磁器がフランスで評価され、ジャポニズムとしてムーブメントを起こしたわけです。

 さて、150年前に生まれていた方はここにはいらっしゃらないと思いますが、150年前の世界に想像を巡らせてみると、現代の物差しでは到底計れない情勢であったと思われます。また、最近、特に欧米で製作された映画やドラマを観ておりますと、間違った解釈の日本が頻繁に登場します。日本と中国が混同されるのはよくあることですし、ヤクザ、寿司、忍者などがデフォルメされて酷い描写のものも多いわけです。文化交流の発展という点では、150年もかけてこんなものかと思ってしまいます。たまたまメディアを通して表に出た物だけが間違っていただけかも知れませんが、そうした作品がヒットし有名になれば、そこに出ていた姿が正しいものだと思われてしまうこともあります。そして、このような映画や芸術作品は、150年後にも残る可能性が高いということです。

 本日ここで、150年の歴史を変えるような文化交流は出来るはずもありません。しかし、ここにお集まり頂いた方の多くは芸術家であると思いますので、出来れば、日仏両国の正しい姿を作品にして後世にも伝えることができればと思います。

● フランソワーズ・イカール=ラングロワ様(欧州造形美術振興協会会長、パリ第6大学哲学講師)

 本日、日本とフランスの交流150周年を記念し、日本のアーティストの方々に遠路はるばるお越しいただき、感慨無量でございます。

 清水社長率いるアートコミュニケーション社とアルテックの友好の始まりは、15年前に遡ります。アルテックは、クリスチャン・ラングロワの芸術に対する見解と芸術評論について、重要な位置を示した団体です。この友好は、以下二点において成り立っています。まず、芸術という同じ興味の対象が、アーティスト同士の交流を生み、言語の違いを乗り越えました。清水氏はフランス語を勉強され、今ではかなり上手に話されます。一方、クリスチャン・ラングロワは日本語を学びました。この言語の交流は同時にヒューマニストの価値という面でも親睦を深めました。言葉の中に今日のエスプリを見出すということは、短歌や俳句の中に見られる素晴らしさで、日々の芸術を創っています。

 本日ここにいらっしゃる皆様が、この展覧会で豊かな芸術表現を見出されることを、たいへん嬉しく思います。アートコミュニケーション社とアルテックの使命は、日本とフランスのアーティストの方々の声に耳を傾け、彼らの作品を紹介し、他の才能との交流によってさらに豊かな芸術力を養っていただくことです。もし、芸術作品が自ら何かを教えようとしなくても、私たちは芸術に対する感動を自分自身で学びとることができます。芸術作品は、言葉やコンセプトの壁を乗り越え、人と人の間に直接コミュニケーションを形作ることができるのです。

 この展覧会における、アーティストの方々の多様性、多方面への探求心を称賛します。様々な芸術的表現によってさらに発展していく彼らの作品が、今日私たちに多大な喜びをもたらしてくれることに、たいへん感謝しています。この歩み寄りの多様性をさらに彩るために、今回、アーティストの皆様をお迎えするわけですが、異なる場所や文化の中で発展を遂げられるアーティストの方々が、この万国共通の同じ感性を共有しておられる事実を、本当にうれしく思います。

 アートコミュニケーション社代表の清水氏がもたらしてくださる親交、そして芸術に対する情熱に、たいへん感謝しております。氏の尽力なしでは、フィレンツェ、パリ、ブロワ、そして日本での素晴らしい展覧会は実現しなかったでしょう。また、色々とご協力くださった、アール・サンジョウ社の松本氏にも感謝の意を表したいと思います。

 最後に、この展覧会にたくさんの方が訪れることと思いますが、ここに展示されている作品は私たちの時代の憧れと期待の表れです。これらの作品を鑑賞し、万国共通のたったひとつの言語、つまりアーティストたちの言葉を把握し、解読することによって、月並みで凡庸なものから私たち自身を守ることができるのです。

●パトリス・ド・ラ・ペリエール様(『ユニヴェール・デザール』発行人)

 このアール・オ・グランというたいへん美しい会場で開催される、日本とフランスのアーティストの芸術性を拝見できる素晴らしい展覧会に出席できることを、たいへん光栄に思います。

 この展覧会は、クリスチャン・ラングロワ氏への追悼という意味で、アートコミュニケーション社の清水氏と、アルテックのフランソワーズ・ラングロワ氏によって企画されました。クリスチャン・ラングロワ氏は、ここに展示されている写真に見られるような建物を設計された名高い建築家であり、フランス芸術学士院のメンバーでもあり、芸術アカデミーの優れた会員でもありました。クリスチャン・ラングロワ氏は、2007年にお亡くなりになられましたが、彼を知る人々の心の中に大きな思い出を残してくれました。このことからもお分かりになりますように、芸術というものは国境を越えて人と人を結びつけ、お互いをより深く理解し合うための特別な手段なのです。

 日本とフランスの間の芸術及び文化交流のために、ご尽力いただいた清水氏とラングロワ夫人に感謝の意を表したいと思います。特に今年は、日仏交流150周年という記念すべき年です。

■最後に

 本展の成功を収めることができたのは、ひとえにご参加頂きました日本人芸術家の諸先生方のお陰であることは申し上げるまでもございません。心より感謝申し上げます。今後とも皆様方のさらなるお力添えを賜りますようお願い致しますと共に、皆様のご発展を心よりお祈り申し上げます。

(ブロワ日仏芸術祭実行委員会)