■世界から注目を浴びる北海道
北海道洞爺湖サミットでは、世界経済、環境問題、アフリカの発展など世界の人々が直面し、解決に向けて努力すべき課題が話しあわれ、その模様は連日世界に伝えられました。その中には、ガソリン、小麦、地球温暖化など身近な毎日の暮らしの中で感じられる問題も多く、一人一人がしっかりと考え、行動しなくてはいけないことは申し上げるまでもありません。
この度、ピースウォール展が開催された函館と洞爺湖とは同じく北海道の道南地域にあり、直線距離にして約100キロしか離れていません。サミット開催まで間近だったこともあり、市内にはサミットを歓迎するフラッグや垂れ幕が目につく一方で、空港や駅では警戒が強化されている旨のアナウンスが頻繁に流れていました。自然豊かな北海道の玄関口でこのようなアナウンスを耳にすることはあまり気持ちの良いことではありません。
このようなタイミングでの開催準備を進めてきた本展は、開催を公表した約1年前から注目され始め、多くの問い合わせを受けて来ました。様々な観点から平和を考えるには、タイミングも、土地柄も、興味深いイベントになったと言えます。詩人の谷川俊太郎さんからも本展にメッセージを寄せていただきましたが、その内容は「平和 それは花ではなく 花を育てる土」というものでした。本展をきっかけに芸術の花、平和の花が1つでも多く咲くことを、関係者一同願っております。
■イメージを一新したピースウォール
戦争による廃墟をイメージした鉄パイプに平和へのメッセージとアートパネルを展示した、ピースウォール函館。パネルの基本色も2004年の東京展から続けてきた赤ではなく、グレーに刷新。欧米ではよく見かける赤いレンガ塀に黒やグレーのパネルという組み合わせを意識したものになりました。会場となった金森赤レンガ倉庫一帯は歴史ある赤レンガの建物が続き、独特の雰囲気を醸し出していますが、まさに本展の起源となっている、9.11の同時多発テロ後に崩れた建物の壁にアートを展示して平和を訴えたという現場を再現したものとなりました。
少ないながら79点の芸術作品と平和メッセージは整然と展示され、周囲を取り囲む赤いレンガ壁、青い空、緑の芝とのコントラストからは特異な印象を受けます。グレーばかりで気持ちが沈みがちのパネルと鉄骨の中に、美しい芸術作品や平和を願うメッセージを見つけると、自然と明るく強い気持ちが湧いてきて、希望が見えてきます。直径3メートルの赤いバルーンが青空に揺れ、カラフルな風船を手にした子どもたちが走り回れば、誰もが微笑まずにはいられません。
■ゆっくりと味わう詩歌の世界
屋内会場は「平和の詩歌パネル展」として、俳句・短歌・川柳等の作品が季節の草花写真とともにカラーのアートパネルとなって展示されました。戦争をテーマとしたもの、家族への想いを読んだものなど、その数は200枚。黒いパーテーションに色とりどりのパネルが映え、会場に一歩足を踏み入れると詩歌の世界に飛び込めるようにされました。会場内の装飾にはあまり派手な色は使用せず、落ち着いた静かな雰囲気でしたが、会場に入った瞬間、「わぁ、すごい!キレイ!」と感激の声を上げる姿も見受けられました。一人でじっくりと考え込むように鑑賞している人や、友達同士でわいわいと読みあいながら楽しんでいる人、気に入った作品の隣で写真を撮っている人など、それぞれのスタイルで自由に詩歌の世界を楽しんでいるようでした。若い人を含め、多くの方々が「この気持ち分かるよね」と共感の声を上げていたのが印象的で、俳句や短歌に普段は縁が無くとも、展覧会という特別な形で詩歌に触れられることを喜んでいる様子でした。
同会場2階には世界各国からの平和へのメッセージが掲示され、休憩スペースも設けられました。そこからは1階展示フロアーを見渡すことができましたが、ほっと一息をつきながら、平和や芸術を考え、忘れられない函館の思い出となったことでしょう。
■著名人から寄せられた平和へのメッセージ(一部抜粋。順序不同)
●歌は風 音は神 愛は平和 平和は自由 私はあなた あなたはみんな 明日は希望 希望は愛 愛は歌。。。 そう 生命って 終わりのない 愛の歌なんですね。
・・・アグネス・チャン(歌手・エッセイスト・教育学博士)
●有史以来、天災人災は今も続いている。人類誕生は奇跡なのだ。一人一人が奇跡に感謝しよう。
・・・ガッツ石松(俳優・タレント)
●「ありがとう」って言葉、理由がなくても一日に何度も口にしてみる。そうすれば一日幸せ、一生平和。心に戦争なんて生まれないよ。
・・・川島なお美(女優)
●僕がよく見る天国の夢。
明るい草原に子供たちの笑い声が絶えずこだましている。
僕がよく見る地獄の夢。
子供の泣き声が絶えない真っ暗な闇。
その闇に次の文字が浮かび上がる。
「第3次世界大戦始まる」
・・・高嶋政伸(俳優)
●多くの戦争が自由と平和を求めて行なわれます。家族が殺されても報復せず、殺されそうでも相手を滅ぼさない…そんな覚悟のもとにしか、真の平和は訪れてこないのかもしれません。何によってそうした覚悟を得られるのか…考え続けるほかないと思っています。
・・・天童荒太(小説家)
●私は、当市の核兵器廃絶平和都市宣言に基づき、世界の人々とともに、非核三原則の堅持と恒久平和の実現を強く願います。
・・・西尾正範(北海道函館市長)
●幸せって何も起こらない事じゃない、何か起こった時に感じる事だと聞いたことがあります。でも私は何も起こらない、みんながHAPPYな平和がおとずれる事を、心から願っています。
・・・辺見えみり(女優・タレント)
●地球上全ての人が笑顔でいられる時が来る日を願っています。
・・・的場浩司(俳優)
●他人の痛さをわかる人になりましょう
・・・森田芳光(映画監督)
●満ち溢れた生活を削ってみる。愛されるより愛する方が愛される。求めるより与える人生の方が幸福。他の命の為に生きれば平和。
・・・渡辺裕之(俳優)
■蝦夷梅雨の中、広がる評判
本州ほどではないものの、北海道には“蝦夷梅雨”と呼ばれる独特の梅雨があり、この影響で暴風雨に見舞われはしたものの、展示作業も6月19日深夜には終了し、20日午前、本展はいよいよ開幕となりました。心配されていた雨は止み、開場と同時に多くの来場者を迎えることができました。隣接した金森美術館、洋物館、ヒストリープラザなどは函館観光では外せない人気スポットとなっていることもあり、大きな観光バスで到着する修学旅行や団体旅行客、小さなお子様からご年配の方々まで来場者はとぎれることはありませんでした。
また、NHK、北海道新聞、函館新聞、読売新聞など、次々と取材もしていただき、20日の昼と夕方のNHKニュースでは本展の模様が放映され、21日には各紙朝刊で紹介されたこともあり、来場者は増加の一途をたどりました。再び悪天候となってしまった最終日の22日は霧雨降る肌寒い1日となり、アドバルーンは強風で危険なため外さざるを得ませんでした。遠くからでも見えるアドバルーンは本展の象徴であり、また平和の象徴だったため、残念でした。
●来場者の声
・テレビで見て来てみたが、素晴らしい作品の数々と平和のメッセージに胸を強く打たれた。来た甲斐があった。
・作品から作者の思いが伝わってくるような気がして、とても感動した。普段、見る機会のないような作品も多くあったのでおもしろかった。出展されているアーティストの皆様に感謝したい。
・平和のメッセージを見たくて来たが、一緒に展示されている作品がどれも素晴らしく、すっかり夢中になって観てしまった。
・たまたま観光で来ていて、こんなに素晴らしい展覧会に出会えるなんて!来て本当に良かった。どの作品にもそれぞれの世界があり、心に響く平和のメッセージとも合っていた。
・ただの芸術鑑賞ではなく「平和」という大きなテーマについても考えさせられる。こういう展覧会がもっとあってもいいと思う。
・このピースウォール展をもっと日本全国に広げて欲しい!私の味わった感動を他の人たちにも体験して欲しいし、こういう機会に皆で平和について考えるのもいいと思う。
・詩歌パネルがすごくキレイ! 家に是非欲しい。ただキレイなだけではなく、内容も様々なものがあって、とても楽しめた。
・実は、俳句や短歌にあまり興味はなかった。でも美しいパネルに惹かれて詠んでみると、奥が深く、共感できるものもたくさんあった。ひとつひとつ、違う世界が楽しめて、気づいたら端から端まで夢中になって観ていた。
・私も俳句を詠んでいますが、展示されている作品を見て、こういう見方やとらえ方もあるんだ、と勉強になりました。
■最後に
以上、本展の成功を収めることができたのは、ひとえにご参加頂きました芸術家の諸先生方、平和へのメッセージをくださった皆様方のお陰であることは申し上げるまでもございません。心より感謝申し上げます。今後とも皆様方のさらなるお力添えを賜りますようお願い致しますと共に、皆様のご発展をお祈り申し上げます。
( PEACE WALL 実行委員会 )
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